タイガの森フォーラム
Taiga Forum
Тайга Форум
2010.02.15
タイガの森メンバー 006
アカシカ/イズューブル

ウデヘ語 キャガー
ロシア語 Изюбрь (イズューブル)      Благородный олень (ブラガロードヌィ・アリェーニ)
英語 Red deer, Manchurian deer
学名 Cervus elaphus xanthopygus

オッス。今日は俺達アカシカのことを読んでもらえるかい。

ここビキンで生きるのは 俺達アカシカにとって 大変でもあり 最高でもある。
だから、ひょっとしたらトラやクマの話よりも面白いかもしれないぜ。よろしくな。

ビキンでは 俺の仲間はしょっちゅう虎  (アムールトラ)  の餌食になってる。
ウデヘの猟師達も 俺達の肉を子どもに食べさせて暮らしてる。
だから 俺達は強い子を残したくて 秋のタイガでオス同士激しく闘う。

子を残すにはまずそこで勝たなきゃならないんだ。
そして 勝ったオスには冬のあいだハーレムのみんなを守る責任がある。
だから この角は見た感じよりもずっと硬くて 鋭くて 重い。

そして必死で生きた冬のおわりに、
俺達の鼻は真っ先にビキンの春の匂いをかぐのさ。

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体長(胴体長)~250cm(オス) 体重 ~250kg

ここビキン川流域では彼らはアムールトラやウデヘの猟師を相手に生きている。

成熟したオスは筋肉質で均整のとれた体と見事な角を持つ。
肉は夏~秋が美味しい。

ビキンウデヘの人達は、伝統的に彼らを狩って食糧とし、毛皮を利用している。
祭りなどでは彼らの闘い(メスをめぐるオスとオスの闘い)を模した踊りを踊る。

(写真)  アカシカの角を持ったウデヘの若者達

【PHOTO】 アカシカの角を持ったウデヘの若者達

広葉樹林やウスリータイガを好む

この地方のロシア系の人々や現代のウデヘの人々は彼らをロシア語で 「イズューブル」 と呼んでいる。

中国東北部やロシア極東に生息する彼らは、亜種マンシュウジカ (Cervus elaphus xanthopygus) と呼ばれることもある。アカシカ (Cervus elaphus) は彼らをふくめて世界に28もしくはそれ以上の亜種がいるといわれる。

広葉樹林やウスリータイガ (針葉樹の朝鮮五葉松と落葉広葉樹が混交しているタイガ、Ussuri taiga) を好み、草、木、葉、若い芽、小枝、樹皮、ドングリなどを食べる。彼らの食性について、ロシア沿海地方の営林所長だったミハイル・ディメノーク氏はこのように紹介している。

〝イジューブルの主な食物は、ニホンジカと同じように、どんぐりやオオバヤナギ、マイヅルソウ、チョウセンゴミシ、ヤマハギ、ライラックなどの葉、シナノキ、ニレ、タラノキなどの樹皮、またシダ、コケの類であった〟

- 「タイガの保護区チーハヤ・ゾーナ」(※)より

※ディメノーク氏の短編集『どんぐりの雨』に収録されています

(写真) アカシカが樹の皮を食べた跡。ビキン川、ウリマ山のふもとで

【PHOTO】 「アカシカの食べた跡だ」と樹皮のはがれた部分を指差す猟師のヤコフさん。ビキン川、ウリマ山のふもとで

秋、オスはメスをめぐって激しく闘う

メスは、年長のメスを中心とする群れで暮らしている。
オスは、繁殖期以外は単独、もしくはオスのみの群れで暮らしている。
繁殖期(秋~)がくるとオス同士が激しく闘い、勝ったオスがハーレムを形成する。
そして春に子が生まれる。

秋のアカシカ達の様子を、ニコライ・バイコフが短編 「奇妙な猟師」(※)でこのように描写している。

〝鹿は朝焼けと夕焼け時にいちばんよく鳴く。
そのとき、あたりの丘や谷間では、鹿の声が響き渡り、高らかなこだまとなって遠い谷に反響してはまた、繰り返されるのである。

年をとった鹿が、敵を挑発するときは、前足と角を使い激しい勢いで土を掘る。そして、激昂してたがいに飛びかかり、敵の体の無防備な箇所へ、鋭い角を突き刺そうと躍起になる。

彼らは角を使って見事に渡り合い、強者が弱者を殺してしまうこともたまにはあるのだ。

普通は弱いほうが譲歩し、自分の雌を勝利者に譲り、逃げて身を守る。
強い雄は、むごい扱いをしながら、五頭ないしは八頭、さらには十二頭ほどの雌の群れを追い立てていく〟

※ 短編 「奇妙な猟師」 は 『北満洲の密林物語  バイコフの森』 に収録

ビキンのアカシカとウデヘの人々

(画像) アカシカの踊り。ビキン川のウデヘの少女達

【PHOTO】  アカシカの踊り。クラスニヤール村

(写真) 太鼓とともにアカシカの闘いを闘うウデヘの少年

【PHOTO】 太鼓とともにアカシカの闘いを演じるウデヘの少年

ここビキン川のウデヘの猟師は、それぞれの季節や場所に合わせた方法でアカシカを狩っている。

たとえば、オス同士の闘争心の高まっている秋は、その闘争心を利用する。
猟師は白樺の樹皮を巻いて作ったホーンに、木片やプラスチック板のリード(息で振動する部品)を取りつけて鹿笛(笛というよりもホーン、鹿ラッパ)をこしらえる。そして、タイガへ向かって雄ジカの「パーオーオ!」という咆哮を真似て吹き、怒って出てきた雄ジカを仕留める。

冬は昼間、雪の上の足跡を辿って仕留める。

春の子ジカの生まれる時期は休猟する。

夏は夜中、水草を食べに水辺へ降りてくるのを、カヌーで待ち伏せする。

※ シナノキの幹をくりぬいたウデヘの狩猟用カヌー「オモロチカ」

【PHOTO】 シナノキの幹をくりぬいたウデヘの狩猟用カヌー「オモロチカ」

ウデヘの猟師は、基本的に自分と家族の必要とする以上の獲物を撃つことはせず、アカシカに関してもそうだ。

ベテラン猟師ヤコフ・カンチュガさん曰く、

〝仕留めた獲物はもう自分では歩いてくれんから、わしらが運ばなきゃならない。
大きなイズューブルだとゆうに 200kg  ある。それを、虎に横取りされたり腐らせたりしないように、パッパッと解体したり運んだりしなきゃならん。
若い時分 わしは仕留めたイズューブルを橇に積んで猟場から村 (クラスニヤール村) まで 40km くらいの道のりをひっぱって帰ってきたが、肉や骨というのはずっしり重たいもんだ。
脚一本背負って歩くのだって骨が折れるんだぞ。
だから  わしら猟師にとって「仕留める」は「運ぶ」とおんなじ意味だ〟

(アカシカの足跡) 凍ったビキン川に積もった雪の中を歩いていった一頭の足跡 (2005年2月 Caplio 400G wideで撮影)

【PHOTO】 2月のビキン川。川面は1~2メートルの厚さの氷で覆われ、氷の上に降った雪が積もっている。足跡はアカシカ (2005年2月  Caplio 400G wide  で撮影)

以上、どうだったかな?
俺達はこの北の森で 虎の牙や猟師の鉄砲の弾を相手に生きている。
「どうしてわざわざそんなあぶないところで生きてるの」って?
そりゃ、ここのタイガが最高だからさ。
きみもビキンへおいでよ、
運がよければ この俺の肉だって食べられるかもしれないぜ。
そのときは俺達のこと考えながら食べてくれよ。
必死に生きたけものの肉だから。
よろしくな。

このシカ、アカシカ/イズューブルの登場する読み物

(画像) 『鹿よ おれの兄弟よ』

『鹿よおれの兄弟よ』  神沢 利子  作,  ゲンナージ・パヴリーシン  絵 / 福音館書店 / 1,785円

(画像) 『どんぐりの雨』 表紙

『どんぐりの雨』 ミハイル・ディメノーク著,  橋本ゆう子 ・ 菊間 満 訳 / 北海道大学図書刊行会 / 1,854円  (短編「タイガの保護区チーハヤ・ゾーナ」にアカシカが登場)

(画像) 『バイコフの森』 表紙

『北満洲の密林物語 バイコフの森』 原作 ニコライ・A・バイコフ,  翻訳 中田 甫 / 集英社 / 定価1,800円  (短編「奇妙な猟師」ほかにアカシカが登場)

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Special Thanks : Yakov Trophymovich, Aleksandr Aleksandrovich, and Sayaka Ootsuka


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