「グラフ旭川」は北海道・旭川市を中心とした地域の情報発信を地道に30年も続けている地元密着型の雑誌です。今回ご紹介するのは、『タイガの森フォーラム』よびかけ人の一人で、北海道で自然保護に長年取り組まれている寺島一男さんによる寄稿文の第2回目です。(第1回目の記事はこちらから)
ところが極東ロシアでは、このトラの棲む森が急速に破壊されている。その一番大きな原因は森林伐採だ。中でも木材価値の高いチョウセンゴヨウは、ねらい打ちをされて伐採されてきた。現在ではロシア政府によってチョウセンゴヨウの商業伐採は禁止されているが、すでにもとの蓄積量の1割にも満たないといわれている。加えて違法伐採も後を絶たず、2003年には15万立方メートル以上が伐採されたといわれている。そして伐られた木は、中国や日本へ輸出されているのだ。
ほかにも森林火災(2006年には極東で45万ヘクタールの森が火災。火災の80パーセントは人間活動に由来)や道路建設、石油やガスのパイプライン建設に伴う伐採が指摘されている。
また、アムールトラの密猟も少なからずあり、密漁取引を調査している国際団体によると、毛皮や漢方薬になる骨が年間数回は高値で取引されていると報告している。
いまこのアムールトラの棲む森を護ろうと奮闘している人たちがいる。ウスリー川の支流ビキン川流域に住む先住民族ウデヘの人たちや、その人たちと一緒に暮らす現地の人たちだ。ウデヘ人はロシア全土でも1900人程度といわれ、ビキン川流域のクラスヌィヤール村に住むウデヘ人(約400人)は、いまでも狩猟で生計を立てている。
アムールトラを民族の守り神と考え、その生息環境を大事にしている。このトラが棲む豊かな森がなければ自らも生活していけないからだ。ビキン川流域は面積135万ヘクタールある。大雪山国立公園の約6倍強の広さだ。そのうち約45万ヘクタールがロシアの中央政府によって「伝統的自然利用区」(TTP)として指定され、先住民族に排他的利用が認められている(※)。
※(タイガの森フォーラム事務局からの補足)2010年2月現在、ビキン川流域は地方政府である沿海地方が「伝統的自然利用テリトリー」として指定されているが、連邦レベルの指定はまだされていない。
だがその面積は全流域の30パーセントにすぎず、周辺が開発されればその自然は大きく変貌する。TTPそのものも危うい事情になりつつある。トラの棲むこのタイガの森は、日本海を挟んだ対岸の出来事では決してない。それは北海道の森林と兄弟のような森が、北海道と同じようにその原形を失おうとしているからだ。そのことの行き着く先は地球の森の貧困化を招くことに他ならない。そのツケはそう回り回らなくても、すぐに私たちの子孫の足下にやってくる。ウデヘの人たちはいまビキン川流域をシホテ・アリニ山脈に続く世界遺産の地にして、タイガの森を護ろうとしている。その道はかなり険しい。ぜひ応援の手を貸して欲しい。
寺島一男氏(大雪と石狩の自然を守る会代表)執筆 「グラフ旭川」2010年1月号 連載「北の自然・人」第286回より転載(後半部分)
数字表記は算用数字に置き換えています。