「タイガの森フォーラム」では11月29日(月)?12月8日(水)の10日間、東京・代官山のイベントスペース「+ING Attic」で、北海道の写真家・伊藤健次さんによる写真やトークでタイガの魅力や問題を発信する「TAIGA installation by 伊藤健次×タイガ・フォーラム at +ING Attic」を開催しました。ここでは、会期中の12月6日(月)、伊藤さんをお招きして行ったトークイベントの模様をレポートします。
伊藤さんによるスライドショー
伊藤さんの写真やタイガの森フォーラムの活動記録、関連書籍などが展示された会場には、この日、仕事帰りのサラリーマンなどおよそ30人の参加者が来場。イベントは、伊藤さんによるスライドショーで始まります。北海道で山や動物の写真を撮ってきた伊藤さんは、「海を隔てた大陸の山や入り組んだ川がずっと気になり、タイガの森を一度訪ねてみたかった」とのこと。念願かなって現地に飛んだのは、4年前の9月、紅葉が始まった頃でした。
森は、カラマツやエゾマツ、ゴヨウマツといった針葉樹にニレやヤチダモなどの広葉樹が混ざり、種類が豊富。シマフクロウが鳴き交わす声を聞いた村人もいます。伊藤さんは「シマフクロウは狩人としてそんなに俊敏ではないので、魚やネズミ、カエルなど餌になる動物の層も厚いんだな」と感じたそうです。「ビキン川は倒木が淀みをつくり、流れの弱い支流もたくさんあるので、獲物をとらえやすいのでしょう。本流だけでなく無数の支流にこそ、人も動物たちも生かされているんですね」。一方、北海道ではシマフクロウの声が響いてきても、雌雄そろわず、一羽だけの地域があるとのこと。「川が暴れるのを許さない日本では支流がカットされていますが、タイガの川はどちらが上流かわからないほど曲がりくねっています。川の本来の姿を見て、日本は失っているものが大きい気がしましたね」としみじみ語ってくださいました。
クラスニヤール村でのウデヘの人々との生活でも、伊藤さんはいろいろなことに気づかされたといいます。タイガで過ごす夜の明かりは焚き火。闇の中で火を囲む共有感に、ほっと心が満たされたそうです。スキー板に毛皮を貼り付けて滑り止めにしていたり、昔話では人の結婚相手がクマやトラだったり、人と動物の近さを感じたエピソードもご紹介いただきました。「北海道とは距離も近いが、木や薬草の使い方も似ている。北海道が失ってきたものが、向こうにはある。とても懐かしさを感じる場所でした」。伊藤さんは、そんなお話でスライドショーを締めくくってくださいました。
映画「タイガからのメッセージ」(仮題)トレーラー版の上映
ここで、しばしの休憩。皆さんにはお茶を召し上がっていただきます。コーヒー、紅茶、クロモジ茶から選んでいただきましたが、スタッフが「向こうの人は紅茶に蜂蜜を混ぜて飲む」と、クラスニヤール村で取れた蜂蜜をご紹介すると、多くの方が紅茶にしていらっしゃいました。蜂蜜だけを味わう方もあり、「自然で飾り気のない甘さだね」「どんな花が咲いてるのかな」といった会話も聞かれました。
続いて皆さんには、タイガの森フォーラムの三上雄己が共同監督で作成中のドキュメンタリー映画を観ていただきました。今年の夏と秋に現地で撮影したもので未完成ですが、タイガの動植物の姿やウデヘの人々から「昔は薪にも枯れ木を拾って、特に用がなければ健康な木は切らなかった」「ビキンを守るには10年、15年先ではなく何百年後のことを考えなければ」といったメッセージが発信されています。スタッフはこの冬、マイナス40度にもなるタイガを撮影しに行き、来夏には完成させる予定です。
トークタイム(伊藤さん×三上×野口)
プログラムの最後は、伊藤さんと三上、同じくタイガの森フォーラムの野口栄一郎によるトークタイムです。最初の話題は、タイガの自然について。「映画の中で紅葉がきれいだったが、あの色は合成なのか」「マイナス40度の世界とはどんなものか」という参加者の質問に、3人が答えます。紅葉については、寒暖の差が大きいため自然に美しくなります(決して合成ではありません!)。また、舗装された道路のない森や土に囲まれた環境では、体感温度はそれほど低くはありません。野口はさらに、空気について触れます。「周り中が森で、イオンが満ちているのか、肌は潤うし髪質もよくなるんですよ」。「あの空気や水、食べ物で生活したら、中からエネルギーがわき出てきますよね」「だから60歳でも元気なんですね」と3人でうなずき合っていました。
「森林伐採はどのように進んでいるのか」との問いには、野口が答えます。「100年ほど前にロシア人が入って来てから、大変な勢いで伐採されています。森林面積に大きな変化はありませんが、太い木がなくなったり、一本一本が弱っていたりと森の質が落ちています。生態系への影響は測り知れません」。さらに、「日本も樹齢350年ほどのチョウセンゴヨウを好んで切って行き、その後植林しなかった時期がありました。この森からの栄養がオホーツク海に入るお陰で、日本は豊かな海産物の恵みを受けている。なくなってから気づくのでは遅いです」と付け加えました。
最後に、参加者からタイガの森フォーラムの今後について質問があり、三上と野口が答えます。「ウデヘの人々の間には、ビキン川流域を森林伐採のできない保護地域に指定してほしいという声が強い。また、21世紀の今も狩猟で生きている自分たちの存在を世界の人に知ってほしいとも聞く。そして、一本の映画を完成させるには人と資金が必要なので、スポンサーを探しているところです」。最後に、三上の「日本の皆さんに他人事ではないと気づいてほしくて活動しています。皆さんに注目いただくことが大きなパワーになるので、ご協力をお願いします」とのご挨拶で、イベントはお開きとなりました。
タイガの森フォーラムが発足して、丸一年。来る2011年は国際森林年でもあり、エコツアーの開催協力による現地支援活動や映画製作をはじめ、より一層精力的に活動してまいります。今後とも皆さまの温かいご支援を心よりお願い申し上げます。
(沖川 和/地球・人間環境フォーラム)