5月3日~4日にかけて第一回日ロ極東フォーラムがウラジオストクで開催されました。ウラジオストクは、9月にロシアが初めての主催国となるAPEC(アジア太平洋経済協力)サミットの舞台となる町です。日本側からは、日ロ協会代表、国会議員、専門家、研究者、実業家など100名以上が、ロシア側からは沿海州やその他極東地域の団体や業界の代表が参加し、環境、医療、農業、エネルギー、文化、ビジネス交流など様々な分野で今後の日ロの友好をテーマに議論が行われました。
タイガの森フォーラムが企画の段階から参加した環境部会では、環境分野における日ロの国境を越えた協力の意義をテーマにディスカッションが行われました。その具体的な場所としてビキン川流域の現状を知ってもらうため、映画「タイガからのメッセージ」ロシア語版の上映を行いました。ビキン川の地域住民代表として、先住民族組合のウラジミル・シルコ組合長ほか数名もクラスニヤール村から駆け付けてくれました。
環境部会の進行は、アムールオホーツクコンソーシアムという枠組みで研究分野での協力の経験をお持ちの白岩孝行氏(北海道大学)とピョートル・バクラノフ氏(ロシア科学アカデミー極東支部太平洋地理学研究所所長)のお二人が座長としてまとめてくださいました。また、東北大学から占部城太郎氏と富松 裕氏にも参加いただきました。
関係者による議論の成果として、環境部会で合意された声明を以下に紹介します。
1.極東地域では、越境河川汚染、越境大気汚染、そして地球温暖化などの地球環境問題、および違法伐採や森林火災による森林劣化などの問題が顕在化しつつある。これらの緩和および解決には、日ロを含む多国間の協力が不可欠である。2009年に設立されたアムール・オホーツクコンソーシアムは多国間学術ネットワークとして、この問題を協議する場を構築し、今後も定期的な国際会合を通じて、極東地域の環境問題を監視し、分析する。
2.環境問題は、政府、行政、ならびに科学者だけで緩和・解決できる問題ではない。NGOや市民、少数民族も含めて、様々なステークホルダーが参加して緩和・解決策を協議する必要がある。アムール・オホーツクコンソーシアムは、NGO、市民、少数民族へのアウトリーチ活動を積極的に行うことに努力する。
3.環境問題の緩和・解決には、長期間の努力が必要となる。日ロ間の取り組みを長期にわたり継続するためには、次世代に人材育成が必須である。東北大学と北海道大学は、極東連邦大学と協力し、環境問題に取り組む人材育成に向け、積極的な協力を加速する。
4.ロシア極東地域には、世界的な価値をもつ高い生物多様性と文化多様性が存在する。ビキン川流域は、ウデヘの人々が自然と共生した生活を営んでおり、環境を持続可能な状態で利用している。この状態を維持すべく、森林伐採以外のエコツーリズムや非木材林産物を通じた自立した地域経済の確立へ向け、共に協力する。
5. ロシア極東地域では、廃棄物(ゴミ)処理とリサイクルが環境問題のひとつとして顕在化しつつある。小型の廃棄物処理・リサイクル施設の導入は、この問題の解決に大きく資する。日ロの協力により導入の可能性を検討すべきである。
タイガの森フォーラムでは、クラスニヤール村の住民たちを交えて、日ロの研究者や関係者とともに、具体的な協力・連携について合意できたことは、ビキン川流域の世界遺産指定など保護ステイタスの確立を含め今後の活動を広め、深めていくための弾みになると期待しています。
(坂本有希/タイガの森フォーラム)