『タイガの森フォーラム』よびかけ人の一人である寺島 一男さんがビキン川のタイガの現状、大雪の森との相似点やタイガの森フォーラムの発足について「グラフ旭川」へ寄稿された「アムールトラの棲む森 タイガを守れ!」を転載します。グラフ旭川社及び寺島さん、ご協力ありがとうございます。
師走の2日、都内のウィメンズプラザ・ホールで『タイガの森フォーラム』発足記念のシンポジウムが開かれた。主催は設立準備員会と国際環境NGO・FoE Japanおよび地球・人間環境フォーラムである。
『フォーラム』は道路開発、違法伐採、密漁者の新入、森林火災などでピンチに晒されているロシア極東のタイガを守るため、現地で活動している先住民族など現地住民やNGOを、隣人として応援することを目的としている。
作家のC・Wニコルさんをはじめ、森林・河川・野鳥・サケ・少数民族などの研究者や、写真家・環境問題の関係者など、15名が呼びかけ人になって発足した。
シンポジウムでは、野生の生命力や土地の記憶をテーマに撮影を続けている写真家の伊藤健次さん、シベリア・極東各地でタイガを護り先住民族の活動や社会進出を支援しているNPO代表のロディオン・スリャンジガさん、現地を頻繁に訪れアムールトラとその森を保全するために活動しているFoE Japanの野口栄一郎さんが、現地の自然やタイガの森の現状と課題についてレポートした。
タイガというと、黒々として針葉樹林が一斉に林立するシベリア北部に広がる森を連想するが、それだけではない。極東東部から沿海州にかけて広がる広葉樹と針葉樹が混交する森もタイガと呼ばれる。アムール川の支流ウスリー川周辺に存在することから、ウスリータイガとも呼ばれている。
一抱えも二抱えもある大きなハルニレ、ヤチダモ、エゾイタヤ、アムールシナノキ、モンゴリナラなどの広葉樹にチョウセンゴヨウ、エゾマツ、トドマツなどの針葉樹が混じる森だ。
タイガなどと聞くと近寄りがたい印象を持つが、実際に入ってみると林内は意外に明るく、北海道との共通種も多く親しみやすい森だ。いつも秋口に訪れるせいもあってか、紅葉した森の中を歩くとまるで大雪山の山麓の森にいる気がする。
主役の木は、高さが優に30メートルは超えるチョウセンゴヨウだ。マツ属の一種で、ロシアではケードル、中国では紅松(ベニマツ)と呼んでいる。なんといっても特徴的なのはその実だ。マツカサは、さながら小振りのパイナップルを思わせるほど大きい。その中に小指の先ほどもありそうな大きな実がびっしり詰まっている。栄養がたっぷりで人間が食べてもおいしいが、おそらくリスやシマリス、ネズミなどにとっては最高のご馳走と思われる。
この森に世界最大のトラ、アムールトラが棲んでいる。全長4メートル、体重350キロにも達する、巨大な猫の仲間だ。旭山動物園にもいて馴染みは深いが、世界的に見れば超貴重な生きものだ。野生の個体数はすでに400頭から500頭しかいない。この数は世界中の動物園等で飼育されているアムールトラの総数とほぼ同じで、まさに絶滅に瀕している。
野生のアムールトラの95パーセント以上が極東ロシアに棲んでいるとみられているが、このトラが生息できるのも、実はこのチョウセンゴヨウがあっての話しだ。この実を食べる小動物がいっぱいいることは、この小動物を食べるテン、イタチ、オコジョ、キツネ、ヤマネコなどの肉食小中獣が多いことを意味する。草食系のアカシカやイノシシなどもこの実のお陰に浴している。それらを食べてはじめてこの大きなトラが生息できるのだ。
(続く)
寺島一男氏(大雪と石狩の自然を守る会代表)執筆 「グラフ旭川」2010年1月号 連載「北の自然・人」第286回より転載(前半部分)
数字表記は算用数字に置き換えています。